判断の軸になる5つ
- 判断はNCFより先(手元に残る側)の数字で行う。表面利回りは絞り込みにしか使わない。
- 帳簿上の利益と手元の現金はずれる。元金返済は経費にならず、減価償却は現金が出ない。これがデッドクロスの原因になる。
- 自己資金 = 諸費用 + 頭金 + 予備費。1件目では予備費を削らない。
- 表示されている数字は中身を確かめる。確かめられないものは、不利な側の値で埋めて計算する。
- 借入が得になるのは、NCF利回りがK%を上回るときだけ。借入は損も拡大する。
お金の流れ
満室想定家賃(GPI)
− 空室損・滞納損
= 実効収入(EGI)
− 運営費(管理委託・固都税・保険・小修繕・広告など)
= NOI
− 資本的支出(大規模修繕の積立相当額)
= NCF ← 買う判断はここから先
− ローン返済(元金+利息)
= 税引前CF
− 税金(帳簿上の所得にかかる)
= 税引後CF
帳簿と現金でずれる項目
| 項目 | 現金 | 税金上の経費 |
| 利息 | 出る | なる |
| 元金返済 | 出る | ならない |
| 減価償却費 | 出ない | なる |
| 修繕の自主積立 | 分けて置く | ならない |
| 資本的支出 | 出た年にまとめて | 資産計上して償却 |
デッドクロス:元金返済額が減価償却費を上回った状態。返済額が一定なら税引前CFは変わらず、税金が増えて税引後CFが減る。
利回りと指標
| 指標 | 分子 ÷ 分母 | 用途 |
| 表面利回り | 満室想定家賃 ÷ 物件価格 | 絞り込み |
| キャップレート | NOI ÷ 物件価格 | 価格評価・比較 |
| NOI利回り | NOI ÷ (価格+諸費用) | 投下総額に対する収益力 |
| NCF利回り | NCF ÷ (価格+諸費用) | 物件が生む実際のお金 |
| K% | 年間返済額 ÷ 借入額 | 借入のコスト |
| CCR | 税引前CF ÷ (頭金+諸費用) | 自己資金の効率。予備費は分母に入れない |
CCR = NCF利回り +(NCF利回り − K%)×(借入額 ÷ 自己資金投下額)
自己資金と融資
| 用語 | 意味 |
| 必要自己資金 | 諸費用 + 頭金 + 予備費 |
| 価格上限 | (自己資金 − 予備費)÷(頭金比率 + 諸費用比率) |
| 購入直後の持ち分 | 物件価格 − 借入残高 = 頭金。諸費用分は購入時点で含み損 |
| フルローン | 物件価格の全額を借りる。諸費用は自己資金 |
| オーバーローン | 物件価格+諸費用を借りる |
| 区分の修繕積立金 | 運営費に入る(NOIの前)。専有部の設備更新はNCFの段階で引く |
税制・融資条件の具体的な数字は変わります。実際に使うときは国税庁や金融機関の一次情報で確認してください。
ドリルの各分野を、考え方・計算例・よくある間違いの順に解説します。要確認 の付いた箇所は税制や金融機関で変わるため、実際に使うときは国税庁や金融機関の一次情報で確かめてください。
1. 費目の置き場所
計算で迷うのは、たいてい「この費用はどの段階で引くのか」です。どの費目も、次の4つの問いを上から順に当てはめれば置き場所が決まります。
- 入居者から実際に受け取れなかった家賃か? → 空室損・滞納損(実効収入の前で引く)
- 物件を運営するために、毎年くり返し出ていくお金か? → 運営費(NOIの前で引く)
- 数年〜十数年に一度、建物や設備の価値・寿命を延ばすために出るお金か? → 資本的支出(NCFの前で引く)
- 借りたお金を返すためのお金か? → ローン返済(税引前CFの前で引く)
どれにも当てはまらず、自分の所得に対してかかる税金なら、最後の「税金」です。
もう一つ別の軸として、税金の計算で経費になるかどうかがあります。お金の流れでの位置と、経費になるかどうかは別の話です。元金返済のように、流れでは引くのに経費にならないものがあります。
費目別の早見表
| 費目 | お金の流れでの位置 | 税金上の経費 | 補足 |
| 空室・滞納 | 空室損 | — | そもそも収入にならない分。経費ではなく収入の減少 |
| 賃貸管理の委託費 | 運営費 | なる | 家賃の一定割合で決まる契約が多い |
| 固定資産税・都市計画税 | 運営費 | なる | 保有している限り毎年かかる、運営の固定費。購入した年に売主へ払う日割りの精算金は扱いが異なる 要確認 |
| 火災保険・地震保険 | 運営費 | なる | 数年分を一括で払った場合、経費はその年分だけ 要確認 |
| 区分の管理費 | 運営費 | なる | 管理組合に毎月払う |
| 区分の修繕積立金 | 運営費 | 原則なる 要確認 | 共用部の修繕のために管理組合に毎月払う固定費。自分で積み立てる貯金とは別物 |
| 共用部の電気・清掃・ネット | 運営費 | なる | 一棟物件で発生 |
| 小規模な修繕・原状回復 | 運営費 | なる | 壁紙の張り替え、水栓の交換など、元の状態に戻すもの |
| 入居募集の広告料・仲介手数料 | 運営費 | なる | 退去と入居のたびに出る |
| 大規模修繕・設備更新 | 資本的支出 | 多くは資産計上して減価償却 | 屋根・外壁・給湯器の交換など。修繕費として一括で経費にできるかには判定基準がある 要確認 |
| 修繕の自主積立 | 資本的支出の積立相当額 | ならない | 口座を分けているだけで、お金はまだ使っていない |
| ローンの利息 | ローン返済 | なる | 赤字の年は、土地取得分の利息に損益通算の制限がある 要確認 |
| ローンの元金 | ローン返済 | ならない | 借りたお金を返しているだけ |
| 減価償却費 | 流れには出てこない(現金が出ない) | なる | 購入時に払ったお金を、帳簿上で年ごとに費用へ振り分けたもの |
| 購入時の諸費用 | 総投資額(買うときの支出) | 取得価額に含めて償却するものと、経費にできるものがある 要確認 | 仲介手数料、登記費用、不動産取得税、ローン手数料など。毎年の流れには入らない |
| 所得税・住民税 | 税金 | ならない | 帳簿上の所得から計算する |
| 敷金 | 収入ではない | — | 退去時に返すお金を預かっているだけ。礼金や更新料は収入になる |
迷いやすい点
- 固都税は「税金」の段階ではない。名前に「税」と付きますが、物件を持っているだけでかかる運営の固定費です。最後の「税金」は、自分の所得に対してかかる所得税・住民税だけを指します。
- 修繕積立金と自主積立は別物。区分の修繕積立金は管理組合に払って手元から出ていく固定費なので、運営費に入ります。自主積立は自分の口座に置いたままなので、経費にもなりません。
- 「修繕」でも置き場所が2つある。元に戻す小さな修繕は運営費、価値や寿命を延ばす大きな修繕は資本的支出です。
2. お金の流れ
家賃が手元の現金になるまでを、上から順に引いていきます。各段階の名前は、「何を引いた後の数字か」を表しています。
満室想定家賃 全戸が満室で家賃を払っている状態。上限値
− 空室損 空室・滞納で受け取れない分
= 実効収入 実際に入ってくると見込む収入
− 運営費 毎年くり返し出る運営のお金(1の表参照)
= NOI 物件が通常の運営で生む収益力
− 資本的支出 大規模修繕などの積立相当額
= NCF 物件が実際に生むお金 ← 買う判断はここから先
− ローン返済 元金+利息
= 税引前CF 返済後に残る現金
− 税金 帳簿上の所得から計算した所得税・住民税
= 税引後CF 最終的な手残り
計算例
| 段階 | 計算 | 金額(万円) |
| 満室想定家賃 | | 600 |
| 実効収入 | 600 × (1 − 5%) | 570 |
| NOI | 570 − 運営費114(20%) | 456 |
| NCF | 456 − 資本的支出40 | 416 |
| 税引前CF | 416 − 返済300 | 116 |
満室想定600万円のうち、返済後に残るのは116万円(約19%)です。ここからさらに税金が引かれます。
よくある間違い
- 運営費の割合を何に掛けるかを取り違える。問題文が「実効収入の20%」なら空室損を引いた後の数字に掛け、「満室想定家賃の20%」なら引く前の数字に掛けます。
- NCFから引き忘れる、または二重に引く。資本的支出は1回だけ、NOIの後に引きます。
- 税金を税引前CFに税率を掛けて出してしまう。税金は現金ではなく帳簿上の所得にかかります(3を参照)。
3. 帳簿と現金
税金の計算(帳簿)とキャッシュフローの計算(現金)では、引くものが違います。
| 項目 | 帳簿(所得の計算) | 現金(税引前CF) | ずれ方 |
| 運営費 | 引く | 引く | ずれない |
| 利息 | 引く | 引く | ずれない |
| 元金 | 引かない | 引く | 帳簿の利益 > 現金 |
| 自主積立 | 引かない | 引く | 帳簿の利益 > 現金 |
| 減価償却費 | 引く | 引かない | 帳簿の利益 < 現金 |
このため、両者の差は次の式で求められます。
所得 − 税引前CF = 元金 + 自主積立 − 減価償却費
計算例
実効収入432、運営費86.4、自主積立20、返済250(利息60・元金190)、減価償却120(単位:万円)の場合:
所得 = 432 − 86.4 − 60(利息) − 120(償却) = 165.6
税引前CF = 432 − 86.4 − 20(積立) − 250(返済) = 75.6
差 = 190 + 20 − 120 = 90
手元には75.6万円しか残っていないのに、税金は165.6万円の所得を基準に計算されます。
デッドクロス
元利均等返済では、毎回の返済額は一定のまま、内訳が年々「利息が減って元金が増える」方向に移ります。一方、減価償却は期間が終わるとなくなります。築古の物件は償却期間が短いので、早く終わります 要確認。
経費になる利息と減価償却が減り、経費にならない元金が増えるので、帳簿上の所得が増えて税金が増えます。元金返済額が減価償却費を上回った状態をデッドクロスと呼びます。返済額は一定なので税引前CFは変わらず、税金が増えた分だけ税引後CFが減ります。
よくある間違い
- 帳簿の計算で返済額をまるごと引いてしまう。帳簿で引けるのは利息だけです。
- 現金の計算で減価償却を引いてしまう。減価償却ではお金は出ていきません。
4. 自己資金の内訳
自己資金は頭金と同じではありません。使い道は3つあり、お金の行き先がそれぞれ違います。
| 使い道 | お金の行き先 | 後で戻るか |
| 頭金 | 物件そのもの(借入が減る) | 売却額を通じて間接的に戻る |
| 諸費用 | 仲介業者、司法書士、税など第三者 | 戻らない |
| 予備費 | 手元に残す | 使わなければそのまま残る |
必要な自己資金 = 諸費用 + 頭金 + 予備費
購入直後の含み損
購入直後の持ち分は「物件価格 − 借入残高」で、これは頭金と同じ額です。実際に払ったのは頭金と諸費用なので、買った瞬間に諸費用の分だけ含み損になります。売るときにはさらに売却の諸費用がかかります。
物件1,800万、諸費用8%、頭金2割、予備費120万
諸費用 = 144 頭金 = 360 借入 = 1,440
必要自己資金 = 144 + 360 + 120 = 624
持ち分 = 1,800 − 1,440 = 360
含み損 = (360 + 144) − 360 = 144
融資の形
| 形 | 借りる範囲 | 自己資金から出すもの |
| 頭金を入れる | 物件価格の一部 | 頭金+諸費用+予備費 |
| フルローン | 物件価格の全額 | 諸費用+予備費 |
| オーバーローン | 物件価格+諸費用 | 予備費だけ(借入が増え、CFは薄くなる) |
迷いやすい点
- 予備費を削って頭金に回すべきか。頭金を増やすと毎月のCFと持ち分は良くなりますが、突発的な支出に使える現金が減ります。致命的な損失は現金が尽きたときに起きるので、1件目では予備費を削りません。
- 金融機関の言う「自己資金◯割」。頭金だけを指すのか、諸費用込みなのかは金融機関によって違いえます 要確認。
5. 価格上限
自己資金から先に予備費を取り分け、残りで頭金と諸費用を払う、と考えて逆算します。
価格上限 =(自己資金 − 予備費)÷(頭金の比率 + 諸費用の比率)
自己資金800万、予備費150万、諸費用8%
頭金1割: 650 ÷ 0.18 = 3,611
頭金2割: 650 ÷ 0.28 = 2,321
分母の比率は「物件価格1円あたり、自己資金がいくら要るか」を表しています。頭金の比率が上がるほど、同じお金で買える物件は小さくなります。
戦略の3つの制約
| 制約 | 問い |
| 耐久力 | 買った後、空室・修繕・金利上昇に耐えられる現金が残るか |
| 融資余力 | 誰が、いくら、どんな条件で貸すか 要確認 |
| 管理可能範囲 | 自分が動ける範囲に賃貸需要があるか |
買える物件は、3つのうち一番きつい制約で決まります。融資が大きく出ても、耐久力が足りなければ買ってよいことにはなりません。必要な予備費は物件の規模に比例して大きくなる点にも注意してください。
6. 区分のNOI・NCF
区分マンションでは、修繕のお金が2か所に分かれます。
| 部分 | 誰が負担するか | どこで引くか |
| 共用部(外壁・屋根・エレベーター) | 管理組合(修繕積立金で) | 運営費 |
| 専有部(給湯器・エアコン・内装) | 所有者本人 | NCFの段階 |
家賃 月7万、空室5%、管理費 月1万、修繕積立金 月1.2万、
固都税 年8万、保険 年1万、委託 年4万、専有部の積立 年3万
実効収入 = 7 × 12 × 0.95 = 79.8
運営費 = (1 + 1.2) × 12 + 8 + 1 + 4 = 39.4
NOI = 79.8 − 39.4 = 40.4
NCF = 40.4 − 3 = 37.4
よくある間違い
- 修繕積立金と専有部の積立を入れ替える。最後のNCFは同じ値になりますが、NOIが修繕積立金の分だけ過大になります。NOIは物件の比較や価格評価に使うので、その場面で物件を実際より高く評価してしまいます。
- 月額のまま足してしまう。管理費と修繕積立金は月額なので、12倍してから年額の費目と足します。
- 修繕積立金があるから将来の心配はないと考える。積立が足りなければ値上げや一時金の徴収がありえます。長期修繕計画と積立残高を確認します。
7. 利回り指標
利回りは「何を何で割ったか」で中身が決まります。名前より分子と分母を見てください。
| 指標 | 分子 | 分母 | 使いどころ |
| 表面利回り | 満室想定家賃 | 物件価格 | ポータルでの絞り込み |
| キャップレート | NOI | 物件価格 | 価格が相場に合っているか |
| NOI利回り | NOI | 物件価格+諸費用 | 投下総額に対する収益力 |
| NCF利回り | NCF | 物件価格+諸費用 | 物件が実際に生むお金の効率 |
物件1,800万、諸費用144万(総投資1,944万)
満室想定216万、空室10%、運営費20%、資本的支出20万
表面利回り 216 ÷ 1,800 = 12.0%
NOI = 216 × 0.9 × 0.8 = 155.5
キャップレート 155.5 ÷ 1,800 = 8.6%
NOI利回り 155.5 ÷ 1,944 = 8.0%
NCF = 155.5 − 20 = 135.5
NCF利回り 135.5 ÷ 1,944 = 7.0%
表面利回りの12%は、段階を追うと7%まで下がります。
迷いやすい点
- 「実質利回り」の定義はまちまち。サイトや業者ごとに、何を引いて何で割ったかが違います。数字だけ見ず、中身を確認して自分の式で計算し直します。
- 分母に諸費用を入れるかどうか。キャップレートは入れず(市場価格との比較用)、NOI利回り・NCF利回りは入れます(自分が実際に投じた総額との比較用)。
- 掲載の想定家賃を疑う。募集賃料か、相場より高い古い入居者の家賃かで、分子そのものが膨らんでいることがあります。
8. レバレッジ
借入が自己資金の効率を上げるか下げるかは、2つの割合の大小で決まります。
| 割合 | 式 | 意味 |
| NCF利回り | NCF ÷ (価格+諸費用) | 投じたお金1円が生むお金。借り方とは無関係 |
| K%(ローン定数) | 年間返済額 ÷ 借入額 | 借りたお金1円あたり、毎年いくら返済に出るか。元金も含む |
| CCR | 税引前CF ÷ (頭金+諸費用) | 自分のお金1円あたりの手残り。予備費は分母に入れない |
CCR = NCF利回り +(NCF利回り − K%)×(借入額 ÷ 自己資金投下額)
NCF利回りがK%を上回れば、借りるほどCCRが上がります(正のレバレッジ)。下回れば、借りるほど下がります(負のレバレッジ)。
NCF利回り7.0%、借入1,440、自己資金投下504(倍率2.86)
返済77.5万: K% = 5.4% → CCR = 7.0 + 1.6 × 2.86 ≒ 11.5%
返済95万: K% = 6.6% → CCR = 7.0 + 0.4 × 2.86 ≒ 8.0%
迷いやすい点
- K%は金利ではない。元金の返済も含むので、同じ金利でも返済期間が短いほどK%は高くなります。
- レバレッジは下落も拡大する。空室が増えてNCF利回りがK%を下回ると、CCRは急に下がります。
- 返済期間を延ばすとCCRは上がるが、代償がある。元金の減りが遅くなり、利息の総額が増え、売却時に残債割れしやすくなります。
- CCRは元金返済の価値を数えていない。元金を返すと持ち分は増えています。保有中と売却時をまとめて評価するにはIRRが必要です(今後学ぶ範囲)。